秀ちゃん、まだ桜咲いてねぇよ [回想録]
3月は別れの季節といいますが・・・
鮨屋の裏手の中学校へ続く遊歩道は見事な桜で繋がれるのですが今年はまだ咲いていません。
またも友人の訃報が届きました。
小沢秀樹という名前で、秀ちゃんです。
彼とは小学生の時に知り合いました。
当時、僕は「駒留剣友会」というところで剣道を習っていまして、秀ちゃんは「堀江剣道クラブ」というところでやはり剣道を習っていました。
「堀江剣道クラブ」は今の世田谷学園の体育館を道場として練習をしていまして我々の道場のすぐ近所でした。
ですから試合などを通してよく顔を合わせ、時には稽古も一緒にしました。
彼は高校を剣道で有名な「駒澤大学付属高校」に進み僕の同級生らと共に激しい稽古に汗を流していました。
僕はひょんなことからテレビの仕事をするようになり秀ちゃんとも疎遠になっておりました。
それから僕も鮨屋になりしばらくたった頃秀ちゃんが世田谷線の上町駅の近くで割烹屋さんをやっていると聞きました。
秀ちゃんは和食の板前さんになっていたんです。
それから秀ちゃんのお店に寄せてもらうようになり再び交友ができました。
今度は同じ調理師として話ができることも多く、勉強にもなりました。
以来ずっと付き合ってきました。
近年は高校以来の剣道も始め、昇段し僕にも剣道をやるように勧めてました。
そんな彼が身体の変調を訴えたのは3年ほど前です。
お鮨を食べに来ている時よくお腹の調子がよくないと言っていました。
それからしばらくして本人から膵臓がガンにおかされたと聞かされました。
膵臓って・・・
膵臓のこと考えたことありませんでしたし、膵臓に対する知識などゼロの僕でした。
膵臓がどのような機能をしているのか、そこがガンになると・・・初めて調べてみました。
治療はお父さんお母さんのもと海老名でおこなっておりました。
去年、8月6日店で仕込みをしていますと突然秀ちゃんが姿を現しました。
御茶ノ水の病院へ行ってきた帰りとか。
僕が海老名にちょくちょく行くことがあるのですが突然の秀ちゃんの訪問にはびっくりしました。
話したい事があったのでしょう、御茶ノ水からわざわざ都寿司まできてくれたのです。
かなり具体的な話もありましたが、そのようにしばし話をしました。
帰りは下北沢駅まで送って行き、そのうしろ姿を見送りました。
年があけ休みが取れるようになった1月17日海老名に行きました。
海老名総合病院。
飲みたいという缶コーヒーを買い小さくなったその身体を乗せた車椅子を押して中央の玄関から外へ。
「ここでいいよ」
秀ちゃんはおもむろに懐から煙草を取り出すと火をつけました。
「やっぱりやめらんなくてね」
「いんじゃない。おいしく吸えてるんだったら」
海老名ののどかな景色を眺めながら秀ちゃんは話しました。
「今、千葉あたりいいキンメ(金目鯛)あがってるんだって?」
「ああ、銚子の?」
「うん、キンメ、旨いよね・・・刺しもいいけど煮付けたりするとね・・・」
しばし二人で魚の話をしました。
秀ちゃんは立て続けに二本煙草を吸うと
「ありがとう、もういいよ・・・だめだね吸えないと吸えるときまとめて吸っちゃうね・・・」
「吸い貯めだね」
そう言って受け取った飲み残しの缶コーヒーはおそろしく減っていませんでした。
「キンメ、しゃぶしゃぶとかも旨いよね」
その日会ったのが最後になりました。
闘病するようになってからついに一度も秀ちゃんにどんなことを思っていたのか聞くことが出来ませんでした。
ある日海老名に行くと出来上がってきたという剣道の防具を出して見せてくれました。
上等な物です。
「積み立て解約して買っちゃったよ」
秀ちゃんは嬉しそうでした。
なんだかわかるような気がしました。
小さい頃剣道をやりました。
大人になってからは板前として話をしました。
酒も飲みました。
当然喧嘩もしました。
つらつらとそれらの事を思い出しながらつぼみになりかけの桜の木の下を歩いていました。
秀ちゃん、もう少しで桜咲くのになぁ・・・もうすぐなのになぁ。
ううん。
そんなことねぇよ。
咲いてたよ。
ほら、あそこにひとつ。
大将の日記を読んで、胸が詰まってしまいました。
人はいつか必ず、向こう側に渡らなくちゃならないけど
どうして神様は時々理不尽な順番にするんでしょうか?
こんな時代になっても、やっぱり癌には勝てないんでしょうか?
見送るのは辛いですよね。
秀ちゃん、大将と吸ったタバコの味、きっと覚えてますよ。缶コーヒーも・・・。
ひとつだけちょこっと開いてる桜の花、
なんとか秀ちゃんに届けようとして頑張って、ひと足早く咲いたんですね。
秀ちゃんのご冥福をお祈りします。
by mayu (2012-04-03 02:04)
偶然にも、ちょっと前に
秀ちゃんの蟹シュウマイの
作り方思い出して、また作りたいなぁ~って
思って。
親切にレシピ書いてくれた時の事、
ゴボウの芯を抜いて輪っかにするやり方
楽しかった思い出ばかり思い出して…
ご冥福をお祈りいたします。
by ゆきやま (2012-04-04 22:07)
病気のこと全然しりませんでした。
今は言葉もありません。自分は今僧侶として生きています。普段触ることのないパソコンを開きこの出来事を知り懐かしきころを思い出しています。実は25日から自分自身新しいタイトルを獲得するために比叡山の行院に出向くよていです。2か月です。まさに仏様の導きと実感してございます。故小澤秀樹様が浄土にて安らかでありますようお念じ申し上げます。 浄土でまってろよ。また会おうな。 合掌
by わたなべとおる (2012-04-24 02:12)
妹の優子です。とても優しい兄でした。ずっと守ってもらっていました。昨年5月19日に納骨式を執り行い、「秀剣誠励信士」として仏の道に旅立ちました。我々家族はいまでもお友達や先輩・後輩方に温かく励まされ、サポートしていただいております。来る3月9日(土)11時より、小田急線座間駅にあります心岩寺において一周忌法要を執り行います。親族と近い友人、剣道の仲間・同輩・先輩方に来ていただいて、法要後は兄らしく明るい思い出話などをしながら食事会を開く予定です。私(妹)の携帯番号を残します。ご希望のかたはご連絡ください:090-4717-6138
by 小沢優子 (2013-02-19 00:20)